お話をきかせて

無名のアイドレスプレイヤーのアイドレス日記です。
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多岐川佑華@FEGさんからの依頼
 
 忘れたくない、覚えていたい

 3月1日

 その日、金村佑華は誕生日だった。
しかし本人はすっかりそれを忘れていた。ただ、いつも空から来る『彼』を想いひたすら泣いていた。
 ああ、何で『彼』の事になると私すぐ泣いてしまうんだろ。
 そんな事を思う余裕もなく、空を見上げては泣いていた。
「大嫌い」
 小さく呟いて。自分でも誰に対して呟いたのかは分からなかった。
 手には戦死公報が、ぐちゃぐちゃな紙の塊と化していた。
 先日のバレンタイン戦役の死者の中に小カトー・タキガワ―――金村の想う『彼』―――の名も記入されていた。
 今の彼女には、瞳が涙でにじんで空の色も分からなかった。


/*/


 3月2日

 散々泣いた後、起きると頭が重く痛かった。脳内麻薬でアルコールに近いものって作れるのかしら? そういや私ドラッガーだったし。
 どうでもいい事を思いながら、金村はリビングに向かった。
 こんな時にも空腹になり、喉が渇く自分の体を恨めしく思った。死んじゃった人はもうそういう事考えられないのに。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら、そういえば昨日は自分の誕生日だったと思い出した。しかし、すごくどうでもいい事に思え考えるのをやめた。
重い頭を抱えながらペットボトルに口を付けたところで、電話が鳴った。
 こんな時に戦闘に参加しろって要請だったらやだなー。不謹慎だと自覚しつつも、そんな事を思いながら電話を取った。
「はい、もしもし?」
『おお、金村かー?』
「藩王?」
 電話の主は彼女の所属藩国FEGの是空とおる藩王だった。
 ヤバ、私また何かやっちゃったかなぁ?
 内心焦り、ともかく謝ろうかと考えたところで告げられたのは思わぬ言葉だった。いや、どこかで期待していた言葉か。
『いや、先日のバレンタイン戦役で死んだって事になってる小カトーの件なんだが・・・・・・・・・』

 藩王との電話の後、金村はいつもより丁寧に洗顔をし、その顔にパックを施した。テーブルにはいつでもできるよう化粧道具も1セット並べておいた。
 他人には見せられない格好でクローゼットを開けて、着て行く服と靴の準備も始めた。
 あ、それに。
 靴をピカピカにしてから手をよく洗いトースターにパンを突っ込んだ。腹が減っては戦はできぬ、だ。


 /*/


 小カトーは生きていた。
 病院の一室で包帯を巻いた状態で、ぼんやりした姿が痛々しかった。
「救助したものの、頭に重い傷が残っています。脳細胞は再生しています」
 病院で働くかれんちゃんの言葉で、金村の脳裏に記憶喪失と言う言葉が浮かんだ。
 まさか、ドラマとかマンガでよく見るものを自分のすぐ側で起きるとは思わなかったわ。
「……そうですか、彼の生活に支障をきたす程度ではなく?」
「はい」
 でも、生活に影響を及ぼすレベルじゃないのは幸いだと思った。
 生きていてくれて、それだけで・・・・・・・・・。

『お前とキスするために排除する必要がある敵機なの』
『次は、敵機撃墜してからな?』

 あの時の言葉も、額に受けた唇の事も。忘れられたのは寂しいけれど。


 /*/


 さて、記憶喪失と言ってもいくつか種類がある。
 その言葉を聞いて、真っ先に思い浮かぶのが「ここはどこ? 私は誰?」という自分自身の事を忘れてしまうパターンだが。ある一定期間だけ忘れるもの、少々タチが悪いものでは今まで生きる上で覚えてきた事全てリセットされ言葉通りの意味で赤ん坊同然となるケースもあると聞く。

「えっと、二人で話したいんですけど、席外していただいて構いませんか?」
 かれんちゃんに席を外してもらった時、金村もそれらの事を心配した。彼女の言葉からして最悪のケースではないとは思うが。
 
 それに、何よりも記憶をなくした事で自分の知っている小カトーでなくなる事が1番怖かった。

 まあ、話してみないと彼が今どういった状態か分かんないし。ショウ君はショウ君だもん。
 ゴクンと唾を飲み干してから、金村は小カトーの病室に足を踏み入れ。話しかけた。

「ショウ君、大丈夫ですか?」
「……だれ?」


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 彼と喋りながら、金村は思い切り拍子抜けしていた。モチロンいい意味でだ。
 彼は自分の事を忘れたのを除いては驚くほど自分の知っている小カトーだったからだ。彼と会う度交わす、噛み合わないようでどこか噛み合った会話。
 そして、不謹慎ながら嬉しかったのは。彼が普段大人ぶっているのに非常に子供っぽい一面を見せてくれた事と、思わぬ所で昔の彼の話を聞けた事だった。

 確かに、忘れられるのは辛い。おかげ様で、また泣いてしまって折角メイクで隠した腫れた目を彼に晒すハメになってしまったし。
 でも、彼とだったら。
 1回リセットしてしまった関係ももう1度やり直せる。そう信じられた。
 彼が覚えていない事は、私が覚えていれば、忘れなければいいんだし。

 ・・・・・・ただ。

『……金村佑華。記憶がなくなる前の貴方を知っているものです』
『うわー! 数学の公式思い出せないのはそのせいか! 国語も・・・英語も・・・来週はテストだったのに』

 私、テストに負けたのか。そこだけちょっとへこんだのは内緒の話である。
 病室から見上げた空は青かった。ふと見上げて気が付いた。
文族のお仕事 09:58 comments(0)
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